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水戸地方裁判所土浦支部 昭和47年(ワ)138号 判決 1975年12月09日

原告

木村正彦

ほか一名

被告

株式会社土浦ドライブクラブ

ほか一名

主文

1  被告らは、原告木村正彦に対し、各自、金八〇万三、八九二円およびうち金六〇万三、八九二円に対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告木村セツに対し、各自、金五万三、〇〇〇円およびこれに対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らの被告らに対するその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

4  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

5  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら(請求の趣旨)

1  被告らは、原告木村正彦に対し、各自、金二四五万八、五三四円およびうち金二一〇万九、一九二円に対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告木村セツに対し、各自、金七万四、二〇〇円およびこれに対する昭和四八年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告らの請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら(請求原因)

1  (事故の発生)

昭和四五年一月一日午前〇時一五分ころ、茨城県土浦市下高津四一七番地先県道において、被告秋田誠(以下、被告秋田という。)の運転する普通乗用自動車(以下、被告車という。)が、原告木村正彦(以下、原告正彦という。)に衝突し、同原告は、脳震盪症、外傷性頭頸部症候群等の傷害を受けた。

2  (責任原因)

(一) (被告秋田の責任原因)

被告秋田は、無免許で、しかも、飲酒のうえ被告車を運転し、前方注視を怠り、前記県道左端を歩行中の原告正彦に、その背後から衝突したものである。なお、被告秋田は、被告車を後記((二)<1>)の業務を行なう会社である被告株式会社土浦ドライブクラブ(以下、被告会社という。)から借り受けて運転し、被告車をその運行の用に供していたものである。

したがつて、被告秋田は、民法七〇九条および自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

(二) (被告会社の責任原因)

<1> 被告会社は、自家用自動車の賃貸およびこれに附帯する業務を行なう会社であり、被告車の所有者である。

<2> 本件事故当時、被告会社の名目上の社長は宮本晃であつたが、実際の主宰者は訴外黒田宗雄(以下、単に黒田という。)であつた。すなわち、被告会社の事務所も車を置く場所も、すべて黒田の自宅であるところ、黒田が、自分の計算で車を買い入れ、黒田自身が自動車を賃貸する業務を行なつていた。

<3> 本件事故当日、被告秋田は、大晦日の仕事を終えた後、かねて顔見知りの黒田の承諾を得て、一時、被告車を借り受けたものであり、黒田は、被告車を一時使用の目的で被告秋田に貸し渡したものである。

<4> 黒田は、被告秋田が無免許であることを知りながら、被告車を同被告に貸し渡したものである。仮に、当時、黒田が被告秋田の無免許であることを知らなかつたとしても、それは、黒田が、同被告に免許証を提示させる等の処置を怠つたため、同被告の無免許であることに気づかなかつたものであつて、黒田の重大な過失によるものである。

<5> 以上の事実によれば、被告秋田が被告車を借り受けたのは、一時使用のためであり、直ちに返還を予定していたものであるから、被告会社は、被告車の運行について支配を有していたものといえるから、自賠法三条により原告らに生じた損害を賠償する責任がある(第一次的主張)。

仮に、右主張が認められないとしても、黒田の前記過失は、同人の被告会社における地位からみて、被告会社自体の過失とみるべきであるから、被告会社には民法七〇九条による責任がある(第二次的主張)。

仮に、右主張が認められないとしても、被告会社は、黒田の使用者にあたるので、被告会社には民法七一五条による責任がある(第三次的主張)。

3  (損害)

(一) (原告正彦の損害)

<1> (入院費自己負担分) 金一万九、五一〇円

<2> (入院雑費) 金二万一、二〇〇円

一日金四〇〇円、入院日数五三日

<3> (診断書、住民票等手数料) 金二、八〇〇円

自賠責保険を請求するため、右の文書を必要とした。

<4> (通院費) 金二万二、〇〇〇円

昭和四五年二月二三日から昭和四七年五月二八日までの通院日数九六日およびその後同年一二月末日までの通院日数八日(合計一〇四日)。

タクシー片道金三二〇円、五〇回分 金一万六、〇〇〇円

バス片道金四〇円、一五〇回分 金六、〇〇〇円

<5> (逸失利益) 金四万八、九九二円

原告正彦は、茨城県江戸崎県税事務所に勤務する地方公務員であるが、昭和四五年一月一日から同年二月二二日までの五三日間、入院のため欠勤したので、同原告が、実際に支給された給与および諸手当は、欠勤のない場合に比べ金九、八九五円少なく、また、賞与は、金三万九、〇九七円少なく、結局、同原告の逸失利益の合計は金四万八、九九二円となる。

<6> (慰謝料) 金一九九万四、六九〇円

原告正彦は、本件事故による受傷時、しばらく意識を喪失し、脳震盪症、外傷性頭頸部症候群等のため、昭和四五年一月一日から同年二月二二日までの五三日間、入院を余儀なくされ、退院後も同年二月二三日から昭和四七年一二月末まで二年一〇か月余も通院しなければならなかつた。この間、原告正彦には、頭痛、頸部痛、両肩の疼痛が継続し、また、自律神経失調症状が強かつたし、現在も、頭痛、頸部痛、眼底痛、愁明、両肩の疼痛、四肢の倦怠感、右半身のしびれ等が断続的にあり、この状態は、今後、相当期間継続するものと思われる。

以上の原告正彦の肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、金二五〇万円を下らない。ところで、同原告は、自賠責保険から金三一万五、三一〇円の保険金と、後遺障害に対する補償金一九万円を受け取つたので、これを差し引くと、慰謝料の残金は金一九九万四、六九〇円になる。

<7> (弁護士費用) 金三四万九、三四二円

原告正彦の前記<1>ないし<6>の損害合計金二一〇万九、一九二円に、原告木村セツ(以下、原告セツという。)の後記(二)の損害金七万四、二〇〇円を加えた金二一八万三、三九二円の一六パーセント(手数料、謝金それぞれ八パーセント)。

(二) (原告セツの損害)

(附添費用) 金七万四、二〇〇円

原告正彦が五三日間入院治療中、同原告の妻である原告セツが附添看護したので、その附添費用は一日金一、四〇〇円として、合計金七万四、二〇〇円となる。

4  (結論)

被告らに対し、

(一) 原告正彦は、前記3(一)<1>ないし<7>の損害合計金二四五万八、五三四円およびうち右<7>の弁護士費用を除く金二一〇万九、一九二円に対するその履行期後である昭和四八年一月一日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二) 原告セツは、前記3(二)の損害金七万四、二〇〇円およびこれに対するその履行期後である昭和四八年一月一日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  被告ら(請求原因に対する認否)

1  (被告会社の認否)

(一) 請求原因1の事実のうち、原告主張の日時、場所において、交通事故が発生したことは認めるが、傷害の部位、程度は不知。

本件事故は、衝突事故ではない。

(二) 同2(一)の事実のうち、被告秋田が、原告正彦の背後から衝突したことおよび同被告が被告車を被告会社から借り受けたことは否認し、その余の事実は不知。

被告会社は、被告秋田に被告車を賃貸した事実はない。

(三) 同2(二)<1>の事実は認める。

(四) 同2(二)<2>の事実は争う。

黒田は、被告会社の使用人であり、主宰者ではない。

(五) 同2(二)<3>の事実のうち、黒田がかねて被告秋田を知つていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) 同2(二)<4>の事実は争う。

(七) 同2(二)<5>の事実は否認する。

(八) 同3(一)<1>ないし<4>の事実は認める。

(九) 同3(一)<5>の事実のうち、原告の身分については認めるが、その余の事実は不知。

原告正彦は、償与期間と思われる昭和四五年一月一日から同年六月三〇日までの間に五三日間欠勤したものであり、その期間に占める割合は二九・二八パーセントである。それにもかかわらず、償与正常支給額八万六、〇二〇円に対し、その四五・四五パーセントに相当する金三万九、〇九八円を差し引いているが、これをすべて被告らの責任とすることは不当である。

(一〇) 同3(一)<6>の事実のうち、原告正彦が、自賠責保険からその主張する金員を受領したことは認めるが、その余の事実は不知。

原告請求の慰謝料は高額すぎる。

(一一) 同3(一)<7>の事実は不知。

被告会社は、無断で乗り出された自動車による事故であるから応訴しているものであつて、不当応訴ではないから、弁護士費用の支払義務はない。

(一二) 同3(二)の事実は不知。

附添費用として、一日金一、四〇〇円は高額である。

2  (被告秋田の認否)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2(一)の事実のうち、飲酒の点を否認し、被告秋田が被告車をその運行の用に供していたことおよび同被告に責任があるとの主張は争うが、その余の事実は認める。

(三) 同2(二)<1>の事実は認める。

(四) 同2(二)<2>の事実のうち、実際の主宰者が黒田であつたことおよび被告会社の事務所も車を置く場所もすべて黒田の自宅であつたことは認めるが、その余の事実は不知。

(五) 同2(二)<3>の事実は認める。

被告秋田は、黒田に被告車を貸してくれといつて借り受けたもので、普通なら金を払うべきところを無償で借り受けたものである。ただし、同被告は、正規の料金を払つて借りるつもりであつた。

(六) 同2(二)<4>、<5>の事実のうち、被告秋田が黒田から被告車を借り受けたことは認めるが、その余の事実は不知。

(七) 同3の事実はすべて不知。ただし、同3(一)<6>の事実のうち、原告正彦が、自賠責保険からその主張する金員を受領したことは認める。

三  被告会社(主張ならびに抗弁)

1  (運行供用者責任がないことについて)

(一) 被告会社におけるレンタカーの貸借は、まず口頭による申込を受けると、運転免許証の呈示を求め、ついで、自動車借受契約書に約定事項を記入し、行先等を聞き、若干の金員を受領してから自動車を引き渡す方法によつていた。

(二) 被告秋田は、レンタカーの借り入れの申込を口頭でしたが、黒田から「今車がないからだめだ」と言つてことわられたところ、被告車を乗り出してしまつたものである。すなわち、被告秋田は、不法行為によつて、被告会社の被告車に対する運行支配を奪つたものであるから、被告会社としては、被告車に対する運行支配はなく、自己のため自動車を運行の用に供する者ではない。したがつて、被告会社には、本件事故にもとづく損害賠償責任はない。

2  (過失相殺)

本件事故は、被告秋田の過失により発生したものであるところ、同被告は、被告車の左側を原告正彦に接触させたものである。ところで、対面交通は、事故の発生を未然に防止する最適の方法であるが、本件事故当時、原告正彦は、道路左側を原告セツと横に並んで内側を歩行していた。したがつて、同原告には、対面交通に違反した過失があるというべく、当然、過失相殺されるべきである。

四  原告ら(被告会社の主張ならびに抗弁に対する認否)

1  前記三1(一)の事実は不知。

2  前記三1(二)の事実のうち、被告秋田が、レンタカーの借り入れの申込を口頭でしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  前記三2の事実のうち、原告正彦が、道路左側を原告セツと横に並んで歩行していたことは認めるが、過失相殺の主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

第一本件事故の発生と責任の帰属

一  (本件事故の態様)

〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

昭和四五年一月一日午前〇時一五分ころ、茨城県土浦市大字下高津四一七番地先の幅員約五・五メートルの県道(同所付近は、当時、街路灯等がなく暗かつた。)の左端を中高津方面から大町方面に向かつて、原告セツが一番左端となり、原告正彦がその右側(道路中央寄り)に並んで歩行していたところ、被告秋田は、普通乗用自動車(被告車)を運転し、右県道を原告らと同方向に時速約一五キロメートルで進行中、前方約一〇メートルの地点に、前記のとおり歩行中の原告両名をはじめて認めて、右にハンドルを切ろうとしたが、及ばず、被告車左側部を原告正彦に接触させて転倒させ、その際、同原告は、後頭部を被告車の左後部の角付近にぶつけ、その結果、脳震盪症、外傷性頭頸部症候群等の傷害を受けた(右事実のうち、前記日時、場所において、交通事故が発生したことは当事者間に争いがなく、原告両名が道路左側を横に並んで歩行していたことは、原告らと被告会社との間で争いがないし、原告正彦の傷害の点は、原告らと被告秋田との間で争いがない。)。

被告秋田本人(第一、二回)の尋問の結果中、右認定に反する部分は、〔証拠略〕に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  (被告秋田の責任)

〔証拠略〕によれば、被告秋田は、本件事故当時まで普通自動車の運転免許を一度も取得したことがなく、本件事故当時、無免許であつたこと(原動機付自転車の運転免許は取得したことがあつたが、これも更新手続をしていなかつたため、本件事故当時は、右免許も有していなかつた。)が認められるが(右無免許の点は、原告らと被告秋田との間で争いがない。)、この点と前記一で認定した事実によれば、本件事故は、被告秋田の前方注視義務を怠つた過失および運転未熟のため適確なる衝突回避措置がとれなかつた過失により惹起されたものであるということができる(原告らは、飲酒運転の点も主張するところ、右主張に添う原告セツ本人の供述部分があるが、これ以外には右主張を認めるに足りる証拠がないので、右供述部分は採用しないこととする。)。

したがつて、被告秋田は、本件事故について、民法七〇九条による責任があるというべきである。

三  (被告会社の責任)

〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

1  被告会社は、自家用自動車の賃貸およびこれに附帯する業務を行なう会社であり、被告車の所有者である(右事実は当事者間に争いがない。)。

2  本件事故当時、被告会社の社長は宮本晃で、黒田は、取締役であつたが、同会社の実際の仕事は黒田が任されてやつていた。すなわち、黒田は、車の買入れ等も自分の計算でやり、被告会社の実際の仕事(車の賃貸等)を管理し、担当していたもので、前記宮本晃は、名前だけ貸していたような存在であつた。被告会社が車の賃貸し等の事務をとる場所は、黒田が寝泊まりする住居(被告会社の所在地はここである。)の一室であり、貸し出し用の車の駐車場は、右住居に接して存在していた(右事実のうち、黒田が実際の主宰者であつたことは、原告らと被告秋田との間で争いがない。)。

3  本件事故当時、被告会社に賃貸用の車は六台あり、被告車もそのうちの一台であつた。被告会社の営業時間は、通常、午前八時から午後九時ごろまでで、車を賃貸する際の手続は、車の賃借申込者にまず免許証を呈示してもらつて、写真と対照して本人であるか否かを確認したうえ、自動車借受契約書に、住所、氏名、年令、連帯保証人等の所要事項を記載してもらい、行先を尋ね、所定の契約金を出発前に預かつてから車を貸し出すという手順になつていた。

4  黒田は、被告秋田が子供のころ近所に住んでいたことと、同被告の父親を以前使つていた関係から、同被告の親と親しくなり、同被告自身も小さいころから黒田に可愛いがられた。本件事故前ころは、被告秋田がソバ屋の店員をしていた関係で、同被告は、出前の時に黒田や同人の妻の石田のぶと出会つて同被告の嫁の話や世間話をしたり、同被告が黒田の家(被告会社と同一の場所)へ遊びに行つたりしていたので同被告と黒田は、月一回位は会つていた(右事実のうち、黒田がかねて被告秋田を知つていたことは当事者間に争いがない。)。

5  被告秋田は、昭和四四年一二月三一日、大晦日の仕事を終えた後、翌四五年一月一日午前〇時過ぎごろ、車で元朝参りをしようと思い、被告会社の所在地である黒田の家へ行き、戸が締つていたので声を掛けて同人の妻の石田のぶに戸を開けてもらつて中へ入り、コクツに入つていた黒田に対し、「今から成田山へ行くので車を貸してくれ」と言つたところ、黒田が「誰と行くのか」と尋ねるので「友達と一緒に行く」と答えたら、黒田は、正規の貸し出し手続をとることなく、「いいだろう」と言つて、当時三台あつた車の中から、キーの付いていた被告車を被告秋田に指示して貸し、同被告に対し、「気をつけて行つてこい」と言つた。なお、コタツに入つていた黒田の場所と被告車の置いてあつた場所との距離は四メートル位で、黒田から見通せる距離であつた(右事実のうち、被告秋田が車の借り入れの申込を口頭でしたことは、原告らと被告会社との間で争いがなく、被告秋田が黒田の承諾を得て被告車を借り受けたことは、原告らと被告秋田との間で争いがない。)。

6  原告セツは、本件事故の直後、被告会社へ電話をかけて、覚えていた被告車のナンバー(三三四)を手掛かりに「三三四の車はお宅で貸しましたか」と相手に問うと、相手は、年配の男の声で「吾妻庵の秋田誠という人に貸した」と答えた。ところで、原告セツは、本件事故前に、出前を一回位とつた関係で、被告秋田の顔は知つていたが、その名前は知らなかつた。

〔証拠略〕中、右認定に反する部分は、前掲他の証拠に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の被告会社における黒田の地位、同人と被告秋田との人的関係、同被告が被告車を乗り出す際の状況等を勘案すれば、被告会社は、本件事故当時、被告車に対する運行支配および運行利益を有していたものと認めるのが相当である。

被告会社は、被告秋田が、正規の貸し出し手続をとらずに無断で被告車を乗り出したものであるから、同会社には運行供用者責任がない旨主張するが、右主張は、前記認定の事実に照らせば採るを得ないものであるといわざるを得ない。

以上によれば、被告会社は、本件事故について、自賠法三条による責任があるというべきである。

第二損害

一  (原告正彦の損害)

1  (入院費自己負担分) 金一万九、五一〇円

〔証拠略〕によれば、入院費自己負担分として、金一万九、五一〇円を要したことが認められる。

2  (入院雑費) 金一万五、九〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告正彦は、本件事故による受傷のため、県南病院に五三日間入院したことが認められるから、同原告の要した入院雑費は、一日三〇〇円の割で、合計金一万五、九〇〇円であると認めるのが相当である。

3  (診断書、住民票等手数料) 金二、八〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告正彦は、自賠責保険を請求するため、診断書、住民票等手数料として、金二、八〇〇円を要したことが認められる。

4  (通院費) 金二万二、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告正彦は、昭和四七年一二月下旬ころまでに県南病院に、少なくとも一〇四日通院したこと、通院にはタクシーまたはバスを利用したことおよびタクシー料金は片道金三二〇円、バス料金は片道金四〇円であることが認められるから、同原告の要した通院費は、タクシー五〇回分、バス一五〇回分として計算すると、合計金二万二、〇〇〇円となる。

5  (逸失利益) 金四万八、九九二円

〔証拠略〕によれば、原告正彦は、本件事故当時、茨城県江戸崎県税事務所に勤務する地方公務員であるところ(右事実は、原告らと被告会社との間で争いがない。)、本件事故による受傷のため、昭和四五年一月一日から同年二月二二日までの五三日間欠勤したので、同原告が、実際に支給された給与および諸手当は、欠勤のない場合の正常支給額と比べて金九、八九五円少なく、また賞与は、右同様に比べると金三万九、〇九七円少なかつた。したがつて、同原告の逸失利益は、合計金四万八、九九二円であるということができる(被告会社は、右賞与の減少分について、期間の比率からみて減少率が高いから、これをすべて被告らの責任とすることは不当である旨主張するが、賞与の算定基準は、一般的に、期間の比率のみから単純に定まるものとはいえないというべきであるから、右主張は採るを得ない。)。

6  (慰謝料) 金一〇〇万円

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告正彦は、本件交通事故により、脳震盪症、外傷性頭頸部症候群等の傷害を受け(右事実は、原告らと被告秋田との間に争いがない。)、右治療のため昭和四五年一月一日から同年二月二二日までの五三日間、県南病院に入院し、同年二月二三日から昭和四七年五月二八日までの間に九六日間、同病院に通院したほか、同年一二月下旬ころまでの間に少なくとも八日は通院した。

(二) 原告正彦は、受傷当初、頭痛、頸部痛、両肩の疼痛を訴え、また、自律神経失調症状が強かつたが、その後も頭痛、頸部痛、眼底痛、愁明、両肩の疼痛、四肢の倦怠感等が断続的にあり、右の各症状は、気候および天候の変化に敏感に左右され、例えば、天気の悪い時に頭が重く感じたりする状況である。

なお、同原告は、本件事故前は近眼も老眼もなく眼鏡の必要がなかつたが、入院当時から、目に痛みを感ずるようになり、紫外線を除く眼鏡をかけるようになつた。

(三) 右(一)、(二)の点を勘案すれば、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するのには、金一〇〇万円が相当であると認める。

二  (原告セツの損害)

(附添費用) 金五万三、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告セツは、原告正彦が県南病院に入院中(五三日間)、同原告の附添看護をしたことが認められるので、原告セツの附添看護料は、一日金一、〇〇〇円の割で、合計金五万三、〇〇〇円と認めるのが相当である。

三  (過失相殺の主張について)

原告正彦が、原告セツの右側に横に並んで、幅員約五・五メートルの県道の左端を歩いていたことは前記一で認定したとおりであるところ、〔証拠略〕によれば、右県道は、歩車道の区別のない道路であることが認められる。そうとすれば、原告ら両名は、本来、対面交通(右側通行)をしなければならないのに、これに反して左側通行をしたものと一応いうことができる。しかしながら、〔証拠略〕によれば、本件事故当時、元朝参りのため人通りが多く、本件事故現場付近の県道の両側には約一〇〇人位の歩行者がいたことが認められるので、右交通事情のもとにおいては、左側通行をしても許されるものというべきである(道路交通法一〇条一項但書参照。なお、〔証拠略〕によれば、被告秋田は、本件事故当時、県道の両側を歩行中の元朝参りの人達をあちこちに認めていたので、時速約一五キロメートルという比較的低速度で進行していたことが、認められるのである。)。更に、本件事故の大きな原因の一つは、前記二で認定ならびに判断したとおり、被告秋田の運転未熟によるものであるといえるのであつて、運転免許を有する普通の運転者であれば、容易に避けられた事故であると考えられるのである。

以上によれば、本件事故の発生につき、原告正彦には過失はないというべく、したがつて、被告会社の過失相殺の主張は採るを得ないものである。

四  (損害の填補)

原告正彦が、自賠責保険から金三一万五、三一〇円の保険金と、後遺障害に対する補償金一九万円を既に受け取つていることは、当事者間に争いがないので、これを同原告の損害たる前記一1ないし6の合計金一一〇万九、二〇二円から控除すると金六〇万三、八九二円となる。

五  (弁護士費用) 金二〇万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、被告らに負担させることのできる弁護士費用としては、金二〇万円が相当である。

第三結論

よつて、被告らは、原告正彦に対し、各自、前記第二、四の金六〇万三、八九二円と第二、五の金二〇万円との合計金八〇万三、八九二円およびうち右第二、五の弁護士費用を除く金六〇万三、八九二円に対する本件事故発生日以後である昭和四八年一月一日から支給ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務ならびに、原告セツに対し、各自、前記第二、二の金五万三、〇〇〇円およびこれに対する本件事故発生日以後である昭和四八年一月一日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務があり、右の限度で原告らの本訴請求は理由があるから認容し、被告らに対するその余の請求は失当としていずれも棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき、同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田昭孝)

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